写真家"彼方"の白い小箱

手振れ補正について

■手振れについて

 フィルムでもデジタルでも、カメラで撮影するときに気をつけるべきは手ぶれである。
 躍動感ある写真はわざとブレを起こすこともあるが、パンフォーカス写真の場合は特にこれが問題となることがある。

 似たようなものにミラーショックがあるが、それはいずれ「撮影技法」のほうで紹介することにしよう。

 かっちりと止まっているべきなのに、手が震えたり動いたりして、写真がホケるというより「ズレる」ような状態が手振れである。ピントが合っていないのは「ピンボケ」で、これまた別のお話。

 手振れを抑える方法はいくつかあり、機材によるもの(周辺機材)とハードウエアによるもの(撮影機材)とソフトウエア(撮影機材搭載機能)によるものがある。今回の話はここである。
 で、レクチャーコーナーにするつもりはないので先にはっきり言えば、明るい場所で十分シャッター速度を上げて撮影すれば、手振れは起きにくい。レンズの焦点距離分の1(50mmレンズなら1/50s以上)で撮影すれば手振れしないよなんていう話もありますが、あまり信じないほうがいいです。あくまで目安程度で。
 
 
■周辺機材による手振れ補正

 レクチャーコーナーにするつもりはない、とは言ったものの、ここは一応押さえておく。

 もっとも分かりやすくて確実なものは三脚もしくは一脚だ。これはハードウエアの部類に入るのだろうが、いかんせんカメラとしてのハードウエアではないので、あくまで「周辺機器」「周辺機材」扱いだ。
 手すりに乗せたり(風や手すりの丸みによる落下に注意)、岩に乗せたり(ラフな撮影なら構わないが、ある程度水平出しはしたほうが良い、こちらも落下注意)するのも代替品として十分考えるに値する。
 これの利点は「確実に手振れしない」ことである。但し、三脚を使ってもレリーズワイヤーやリモコンシャッター、10秒・2秒(機種によっては3秒)セルフタイマーを使わなければ、シャッターを押すときの力でブレてしまうこともあるので注意を要する。

 ああ、それと三脚禁止の場所で三脚・一脚を使うなよ。絶対だぞ。
 駅で電車の撮影するときに三脚や一脚を伸ばして持ち上げて撮影するなよ、絶対だぞ。最悪感電死するぞ。特に新幹線なんか25000ボルト来てるんだ。誘導放電食らったらひとたまりもないぞ。時々それやって死んだりするお馬鹿さんがいるから困ったものだ。
 
 
■ハードウエアによる手振れ補正
 
 今回の本題はここからである。この項目を読む人はステディカムなんて使わないだろうからそっちは別。そもそもあっちは動画撮影におけるものだし。
 でまぁ、手振れ補正にはハードウエアによるものとソフトウエアによるものがある。もうちょっと言い方を変えると「光学式」と「電子式」に分かれる。

 ハードウエアによる補正は光学式としておく。私の区別としては「撮影前処理」がハードウエア、「撮影後処理」がソフトウエアというイメージで覚えている。

 レンズシフトという方法では、知名度が高いのはCanonのEOS系EFマウントレンズに搭載されているIS(イメージスタビライザー)ですね。キャノン以外でもシグマやタムロンなんかがこれ。共通するのは「レンズによって手振れを補正する」のがこのタイプです。
 鏡筒内の補正用レンズが動くことで、焦点位置を補正し続けます。プリズムを使ったタイプもありますが、昨今はもっぱら「手振れを補正するレンズを動かす」ほうがメイン。
 メリットはレンズ毎(鏡筒毎)に適切な安定化システムが組まれていることと、撮影範囲が小さくならないこと、電源は撮影機材(カメラ本体)から頂けること。フィルムカメラでも適切な組み合わせなら使えるデメリットは、当然これをオンにしたままにするとカメラのバッテリーの持ちが悪くなること。速度のあるものを追いかけると誤作動することがあること、三脚使用時にオンになっていると誤作動することがあること、割と壊れやすい
 使わないときはスイッチとかで機能をOFFにしておきましょう。

 イメージセンサーシフトは、本体側で行う手振れ補正。フィルムカメラでは使えません。これはCCD/CMOSといったイメージセンサー、つまりデジタルセンサーを物理的に動作させる方式ですから、フィルムではそんなことできない。
 鏡筒は無関係に、本体側のセンサーで手振れを検知して、センサーを上下左右と微回転させることでブレ分を補償します。
 私の持っているカメラだと、FujifilmのFinePix F50fdがこれを搭載していますね。
 メリットはコンパクトカメラのようにレンズに手振れ補正が組み込みにくい時に便利。レンズ取替え可能なカメラの場合、レンズシフト機能のない鏡筒を接続しても手振れ補正が使える。この場合、レンズを振動させてダストクリーニングする、みたいな機能も使える。デメリットコンデジの場合はほぼ無し。デジタル一眼の場合はレンズ特性を考慮した制御ソフトが必須になることと、大口径レンズではレンズシフト式と比べると分が悪い。イメージセンサーが大きくなればなるほど本体がデカくなりがちになる。そりゃそうだ。何せセンサーを動かすモーターを入れなきゃいけなくなるんだから。

 これ以外にはレンズユニットスイングというものが存在するらしいが、まぁ滅多にお目にかかれるものではない。
 イメージセンサーシフトとレンズシフトの両方乗せ、という感じで。手振れを軽減するというより振動そのものを吸収するかのような変態システム。おそらく最強だろうけど、ざっと確認した感じではメリットもデメリットも全部乗せ状態ではあるが。
 
 
■ソフトウエアによる手振れ補正
 
 いわゆる電子式手振れ補正というもので、ハードウエア(光学式)による手振れ補正とは違う。
 おそらくオンライン百科事典などには掲載されていないだろうが、私はソフトウエア専門。ここでは3つの分類に分けて説明しよう。他のサイトでは通用しない「造語」じみた言葉を使っているので注意。

 おおまかなメリットとして、撮影機材を大きくする必要がないという点が挙げられる。ソフトウエアで処理するので、ハードウエア、つまり物理的な部分は手をつけなくて良い。また、ソフトウエア更新で画質向上も期待できる
 おおまかなデメリットとして、画質が少々悪くなることがある。ただ、ソフトウエアが更新されれば改善される可能性もある。また、光学式ほどではないとはいえ演算装置で処理するので電気をそれなりに使う。ソフトウエアの処理の仕方によってはコンニャクという、映像がナナメにブレたような写真が出来ることがよくある(特に高速で動く物体をメカニカルシャッター機構のない機材で撮影した場合)。


 「一般的な」電子式手振れ補正 は、連写撮影を行う(勿論、撮影者は1枚撮影してるだけ)。本体内では撮影した写真をソフトウエア的に処理して、手振れによって欠けたりハミ出しした部分をツギハギしたり、ブレのひどい部分をブレていないものに置き換えたりする。そうしてツギハギした写真が1枚の写真として出来上がる。理論上は正しい写真が出来上がるはずなのだが、ずーっとブレ続けている写真を撮影した場合、効果は期待できない。ソフトウエア処理上の問題なのか、僅かに色あせたような写真が記録されることがある。

 少しだけ専門的な言葉で:おそらく撮影された画像に、ソフトウエア上で目標にしやすいマーカーを仮想的に設置する。複数撮影された映像それぞれ、同じと思われる場所に目印をつけて位置を合わせる。最もボケの少ない写真は輪郭線の鮮鋭さやコントラスト差を用いて検出(安いカメラや手抜き手振れ補正カメラはこれだけで処理終了)。それを基準にして、残りの写真と位置合わせやトリミングを使って適切なサイズ、画角を決定し、最終データとして出力する。


 「切り取り式」電子式手振れ補正 と私が呼んでいるものは、撮影サイズより僅かに大き目のセンサーを用意する方法。おそらくこちらはAppleのiPhoneシリーズが有名なところ。僅かに大きめのセンサーを用意するというのがミソで、本体に内蔵されているセンサーを用いて、ズレた分だけ画像をシフトさせる。例えばシャッターボタンを押して本体が少しだけ下に下がったとすると、その分だけ「画面には映さないがデータとして確保している」上部分の画像をズラしてデータとして記録する。すると、本来撮影したい画角の画像が記録される。ただ、これは「補正」というより「手振れ補償」に近い。

 文章だけだといまいちよく分からない、という人は、目の前で親指と人差し指をファインダー(鉤括弧「 」)のように組んでみよう。そして、そのまま少しそれを下げる。画面上部、左人差し指の上に出てきた部分が、「データとして確保されている余裕部分」ということになる。

 この方法だと完全に手振れ補正するのは厳しいので、先の一般的電子式手振れ補正機能と組み合わせて使うか、手振れが収まった瞬間まで撮影を少しだけ待機する機能がついている場合がほとんどだと思われる。スマートフォンのカメラはラグがある、という方は、きっとこれが原因だと思う。
 
 
 「待機式」電子式手振れ補正 はソフトウエアというよりもアプリケーションの実装に近い。
 私がスマートフォンに入れている、あるカメラアプリケーションが用いている手振れ補正。シンプルかつ分かりやすいが、即応性がないという欠点がある。明るいところでは普通に即時撮影が出来るのだが、薄暗いところで撮影ボタンを押すと、すぐには撮影しない。画面にブレ具合のグラフが現れ、カメラを構えたまま、そのグラフが許容値以下になると即座に撮影するという機能だ。

 個人的にはこれも手振れ補正のひとつ、しかもかなり分かりやすいものだと思っている。原始的、というべきなのだろうか。しかしシャッターボタンは既に押されているので、あとは「ブレなくなった」瞬間に自動撮影される。
 物理的な画像センサーの情報と、加速度センサーの情報を組み合わせているが、「撮影後に調整するもの」ではない。あくまで撮影時に「ブレが収まるのを待つ」というものだが、これがなかなか使いやすい。実際の映像を見て頂ければ分かる。

 ISO800 F2.4 シャッター速度が1/15、手持ち撮影、フラッシュなし。これは撮影した写真から原寸サイズに切り出した一部分。照明はおそらく60ワット電球の間接半逆光。この札までの距離はおよそ150cmである(しかも微風)。なんとiPhone4Sで撮影したものだ。iPhone6か6Sならもっと綺麗に撮影できると思うが、上々である。


■まとめ

 知らなくても損にはならないが、知っていれば得にはなる。
 まぁ「この補正機構なら○段くらいまでなら補正してくれる」でいいかもしれないけれど、それがどういうものか知っていれば、撮影するときに僅かな助けになるはずだ。
 ただ、もっとも重要なことは「ブレさせない撮影」のほうだと私は思うけれどね。

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